
ABM(アカウントベースドマーケティング)は、狙う企業を先に決め、その企業の担当者・決裁者に合わせて営業とマーケティングが一緒に働きかける手法です。リードの数を集めてから選ぶ従来のやり方と順番が逆になります。この記事では、ABMの基本と、1〜3人のマーケティングチームでも始められる6つのステップ、Tier別の施策、成果の見方までを整理します。
手順の各ステップには、さらに詳しく解説した記事へのリンクを付けています。必要なところから読み進めてください。
ABMは、自社にとって価値の高い企業(アカウント)を選び、1社ずつに合わせて施策を組み立てるBtoBマーケティングの考え方です。
BtoBの購買は複数人で決まります。Gartnerは、複雑なBtoBソリューションの購買には一般に6〜10人の意思決定者が関わり、購買担当者が検討期間中に売り手の企業と会う時間は全体の17%にとどまるとしています(Gartner「The B2B Buying Journey」)。担当者1人を口説いても決まらないため、企業単位で関係者全体に届ける必要がある、というのがABMの出発点です。
従来のリード獲得型のマーケティングは、広告や記事で多くのリードを集め、その中から有望な人を選んで営業に渡します。ABMは順番が逆で、先に企業を選び、その企業の中で誰に何を届けるかを決めます。

どちらか一方を選ぶものではありません。受注額の大きい重点企業にはABM、それ以外の市場にはリード獲得型と使い分ける会社が多くあります。
ABMは手間がかかる分、1社あたりの受注額が大きい商材で効果が出やすくなります。次の項目に多く当てはまるほど、ABMを試す価値があります。
反対に、単価が低く対象企業が数万社に広がる商材や、営業が1社ずつ対応する余力がない状態では、まずはリード獲得型の施策を優先したほうが成果につながりやすくなります。リード獲得の全体像はBtoBリード獲得とは?施策の選び方と商談につながる実践手順で解説しています。
ABMは、1社にかける手間の大きさで3つの型に分けられます。企業の重要度(優先度のランク。以下Tier)に合わせて使い分けます。

少人数のチームが最初から1対1型を多数こなすのは現実的ではありません。Tier Aは数社に絞り、残りは1対少数・1対多で回す組み合わせから始めるのがおすすめです。
ABMは、対象を決める前半(ステップ1〜3)と、働きかける後半(ステップ4〜6)に分かれます。前半の合意が曖昧なまま施策を始めると、営業が動かないまま終わりがちです。

最初に、どんな企業が自社にとって「勝てる顧客」なのかを定義します。業種や従業員規模だけでなく、抱えている課題、導入の決め手、受注後に継続・拡大しやすいかまで含めて決めます。既存顧客のうち、受注額が大きく継続している企業の共通点から作ると、根拠のある条件になります。
条件の決め方はBtoBで「勝てる顧客企業」を定義する作り方で詳しく解説しています。
ステップ1で決めた条件に当てはまる企業を、具体的な社名のリストにします。既存顧客・失注企業・過去の問い合わせ企業に加え、企業データベースや業界団体の名簿から候補を集めます。リストは営業と一緒に確認し、「この会社は追わない」という判断まで合意しておくことが大切です。
リストの作り方や絞り込みの手順はBtoBのターゲットアカウントリスト作成法をご覧ください。
リストの企業を、受注の見込みと受注額の大きさでTier A・B・Cに分けます。Tierごとに、どの型(1対1・1対少数・1対多)で働きかけるか、誰が担当するかを決めます。最初はTier Aを数社に絞ると、少人数でも手が回ります。
Tierの基準づくりはTier設計とは?BtoBの優先顧客を攻略方針別に分ける方法で解説しています。
Tier Aの企業は、事業の状況、中期経営計画、プレスリリース、採用情報などから、いま抱えていそうな課題を調べます。あわせて、導入に関わりそうな部署と役職(利用部門の責任者、情報システム、決裁者など)を洗い出します。
この下調べは生成AIが得意な作業です。公開情報の要約や、課題の仮説出しをAIに任せると、1社あたりの調査時間を短くできます。ただし、AIの出力には誤りが混ざることがあるため、出典を確認し、どの課題で攻めるかの最終判断は人が行います。
調べた課題をもとに、役職ごとに何を伝えるかを決めます。経営層には事業への影響、利用部門には業務がどう変わるか、情報システムには導入・運用の負担というように、同じ提供価値を相手の関心に合わせて言い換えます。
メッセージの作り方はBtoBメッセージング設計、そもそもの提供価値の整理はBtoBのバリュープロポジションとは?で解説しています。
施策は、狙った企業に届けられるチャネルを選びます。代表的なのは、企業リストを指定して配信できる広告(LinkedIn広告など)、個別の手紙やメール、少人数のセミナーや勉強会、既存顧客からの紹介です。LinkedIn広告の設定方法はLinkedIn広告の始め方で解説しています。
ABMは営業とマーケティングが同じ企業を見て動くことが前提です。次の3点を最初に決めて、月1回は一緒に振り返ります。
営業とマーケティングの分業の考え方は「THE MODEL」でマーケと営業が対立していませんかも参考にしてください。
Tierごとに、かける手間と担当を変えます。下表は少人数チームを想定した一例です。
| Tier | 主な施策 | 担当 | 見直しの目安 |
|---|---|---|---|
| Tier A(1対1) | 個別調査に基づく提案書、経営層向けの手紙、個別の勉強会、決裁者への紹介依頼 | 営業が主担当、マーケは調査と資料を支援 | 毎月 |
| Tier B(1対少数) | 業界別の事例資料、業界別セミナー、課題別のメール配信 | マーケが主担当、反応があれば営業へ | 四半期ごと |
| Tier C(1対多) | 企業リストを指定した広告、ホワイトペーパー、メルマガ | マーケ | 四半期ごと |
ABMでは、リードの数よりも「狙った企業で何が起きたか」を企業単位で見ます。段階ごとに次のような指標を置きます。

ABMは成果が出るまでに時間がかかります。受注だけで判断せず、接点や関係構築の指標が前に進んでいるかを月ごとに確認してください。目標と指標の組み立て方はBtoBマーケティングのKPI・KGI設計で解説しています。
| 失敗 | 起きること | 対処 |
|---|---|---|
| リストを広げすぎる | 1社あたりの手間が薄まり、従来のリード獲得と変わらなくなる | Tier Aは数社から始め、成果を見て増やす |
| 営業と合意しないまま始める | 反応があっても営業がフォローしない | ステップ2・3のリストとTierを営業と一緒に決める |
| 担当者1人とだけ接点を持つ | 担当者が異動・退職すると関係が切れる | 決裁者や他部署にも届くよう役職別のメッセージを用意する |
| 短期間で判断する | 成果が出る前に打ち切ってしまう | 接点・関係構築の指標で進み具合を確認する |
ABMは専用ツールがなくても始められます。最初は手元のツールで回し、件数が増えて管理が追いつかなくなった段階で専用ツールを検討すると無駄がありません。
| 用途 | ツールの種類 | 使う場面 |
|---|---|---|
| 企業の候補を集める | 企業データベース | ステップ2のリスト作成 |
| 既存の接点を把握する | 名刺管理ツール | リスト企業との過去の接点の確認 |
| 反応を把握する | MAツール | メール開封・サイト訪問の企業単位での把握 |
| 商談と受注を管理する | SFA・CRM | 企業単位の商談状況と営業の記録 |
| 狙った企業に届ける | 企業リストを指定できる広告 | Tier B・Cへの配信 |
MAツールの選び方はMAツール比較10選、SFAとCRMの違いはSFAとCRMの違いを完全図解で解説しています。
取り組めます。狙う企業を数社から数十社に絞れば、専任の担当者がいなくても始められます。重要なのは、営業と同じ企業リストを見て動くことです。
多くの場合は併用します。受注額の大きい重点企業にはABMで個別に働きかけ、それ以外の市場にはリード獲得型の施策で接点をつくる、という分け方が一般的です。
商材の検討期間によって変わります。検討期間が長い商材ほど受注までに時間がかかるため、最初は接点数や関係構築の指標で進み具合を確認します。
最初は必須ではありません。表計算ソフトとSFA・CRMで企業リストと接触履歴を管理し、対象企業が増えて手作業が追いつかなくなった段階で専用ツールを検討します。
決まった数はありませんが、少人数のチームならTier Aは数社に絞るのが現実的です。ただし企業リストを使う広告は、配信先として一定の企業数が必要になる場合があります。たとえばLinkedIn広告の会社リストは300行以上が必要です。
ABMは、狙う企業を先に決め、その企業の関係者全体に営業とマーケティングが一緒に働きかける手法です。狙う企業の条件を決め、リストを作り、Tierに分けるところまでを営業と合意できれば、少人数でも始められます。まずはTier Aの数社から試し、接点と商談の動きを見ながら広げてください。狙う企業の選び方から相談したい場合は、無料相談もご利用いただけます。